マカロニ。

おたく魂をぐつぐつ煮込んで

叩けよ さらば開かれ…… 「かつてのJ」

私は作品には人格があると思っている。演劇にしろ、音楽にしろ、映画にしろ、板の上に乗ったら、作品としてパッケージングされたら、それは作者のものでも俳優のものでも演奏家のものでも観客のものでもない、何者からも切り離された「作品」としての人格があると思っている。*1

でもこの「かつてのJ」は、作品という人格として扱うには非常に血が濃かった。それは私が彼がWであったことを知ってるからとか、偉大なるJの刹那的なアガペーや理念や理不尽さから否応なく継承される美しい物語を見てきているからとか、桶や水着で踊るクソ文化をクソと思いながらもそれを消費することでしか“応援”できる術がない事実がクソだなと思ってることとか、彼がJになってから投げつけられた言葉や彼のなしえたい世界を知ってるからとか、その世界の実現のために、少なくともわたしは彼の嫌う資本主義という槍を振るい続けなければいけないんだよなとか、いろんな要素が私にあるからであって、今回はエモーショナルになりすぎて非常に没入しづらかった。従来の彼の作品に比べてローコンテクストで、板の上には明確に「WとJ」が存在し、観客として「わたし」が存在し、互いに対岸を並走する人生を俯瞰で観た。かながわ短編アワードへの痛烈なカウンターをかましながら、かつて偶像であったJの人生の末路を未来への祈りの偶像としてあの地下に屠ることにより、浄化と自戒の物語は幕を閉じる。奈落の底からの叫びを聞かせるキリキリとした笑顔が網膜に焼き付いている。奈落の底からベニヤを叩いたらそれは開くのか。開いたとて差し伸べられる手はないかもしれない。ならば後に続くこどもたちに差し伸べる手になるために、強く這い上がるしかない。これが演れて良かったとおもう。これを観れてよかったと思う。

 

 

一方、私は「かつてのJ」という作品とは別に、今イベントにおける、彼のいうところの「責任」のとり方(結果論的なものではある)が、あんまり好きではなかった。

 

彼のnoteでも書かれている通り、今回は非常に販売・収益の最大化というところに力を入れているように見えた。見えたというかあからさまにそういう動きをしていた。ので、勇み足でチケットをとるなどそれに応えようと私(たち)も動いた。彼のDM送付などの賢明なアプローチでエリア51名義で70席ほどを売り上げたという。すばらしい。たくさんの人に作品を見てもらえた。「かつてのJ」は喜んでいると思うし、私も嬉しい。

 

今シーズンの投票結果が発表される日、神保氏から「かつてのJ」の得票数・順位の公開、スペシャル公演出演希望を控える旨のお知らせがあった。

私は彼の魅力を、己のマスターベーションを美しく見せてくれるところだと認識していて、今回も「かつてのJ」という昇華を美味しくいただいた。ただ、今回の彼の“検証”という名のマスターベーションは、ビジネスとして展開し人を巻き込んだそれとしてはあんまり美しくなかった。投票があるイベントで、買ってくれと働きかけ、会場の多数をエリアの扱いチケットで埋めて、観客の投票も済んで、のタイミングでのこの発表で、なんと表現したらいいか、コールアンドレスポンスがあると思って思いっきり声をだしたけど、なんか私だけ勝手にレスポンスしちゃったー!ここ盛り上がりどころとちゃうんかーい!みたいな、振り上げたテンションの行き場のなさにずっこけた。とまどった、とか裏切られた、というより、ずっこけた。あえなく私の票は死に票となった。こうなることがわかっていたら、私の票は生きた票にしたかったな、ほかの作品に面目が立たねえ。少なくとも私は、いま、「かつてのJ」を人質にパッションのスリにあった気分だ。

作品は作家演出家演者がどう扱ったっていい。というか作品の主権は彼らが持っているとされるのが一般的だ。作り上げた作品がイベントの趣旨にそぐわなくなったと感じたということ自体は責めないし、作品という生き物を産むうえでは避けられない道筋のひとつだろう。演劇を継続するうえで、収益を重視しなければいけないというのも一つの重要な柱で、それを実証実験する目当てと試みもよかったと思う。だからこそそれを支援しようとチケットを買う人がいる検証だったならば、投票イベントがある催しであること、それに票を投じるひとがいること、収益として成功した結果に付随して起こるであろうことをもう少し慎重に予測してほしかった。クリエイターとしての美学と、自営業者としての信用はまた別ものじゃないかい。いま私は実に資本主義的なことを書いているね。でもなんか、レギュレーションを信じてのぼったハシゴを外して去っていく君を、ぽかんと眺めている、そんなかんじ。

 

良い作品を観れた。それでリターンはじゅうぶん。なのにそれ以上を求めるという、おたくとして一番よくないムーブをしているのはわかっている。でもここからハシゴなしに飛び降りるにはちょっとまだ身体が重すぎる。なのでここに書き置かせてもらうよ。この言葉たちは、奈落にとって槍となってしまうのだろうか。わからない。

*1:登場人物・役もしかり。